
強制わいせつ罪という罪は、ニュースなどで比較的耳にする罪ではないでしょうか?
本記事では、性犯罪の中でも皆さんに身近ともいえる強制わいせつ罪の成立要件について解説した上で、キスやハグでも罪に問われるのか、逮捕されたら具体的にどんな行動を取るべきか、などについて解説します。
ぜひ最後までご一読いただき、参考にしていただければ幸いです。
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この記事の目次
強制わいせつ罪の成立要件
強制わいせつ罪は、刑法176条に規定されていますから、まずその規定から確認してみましょう。
(強制わいせつ)
第百七十六条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
強制わいせつ罪は、相手が13歳以上か13歳未満かで成立要件が異なります。
すなわち、相手が13歳以上の場合は、
- ① 暴行又は脅迫
- ② わいせつな行為
- ③ 故意(強制わいせつ罪を犯す意思)
が強制わいせつ罪の成立要件で、13歳未満の場合は、
- ② わいせつな行為
- ③ 故意(相手が13歳未満であることの認識)
が強制わいせつ罪の成立要件です(①の暴行又は脅迫の要件は不要です)。
以下、それぞれの要件について詳しくみていきましょう。
暴行又は脅迫
暴行とは、人の身体に対する不法な有形力の行使のことをいいます。
たとえば、殴る、蹴る、叩く、蹴る、押し倒す、腕を引っ張る、馬乗りになる、羽交い絞めにするなどがその典型でしょう。
また、たとえば、被害者の体に馬乗りになった後に胸を揉むなど「暴行⇒わいせつな行為」が行われた場合のほか、被害者の背後から、いきなり両手で胸を鷲掴みするなど「暴行=わいせつな行為」の場合も強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
脅迫とは、被害者の生命、身体、自由、名誉又は財産に害を加える旨を告知する(害悪の告知)ことをいいます。
たとえば、「胸を揉ませなければ殺す。」という言うことは生命に対する害悪の告知に当たりますし、「陰部を触らせないと、お前の裸の写真をネット上にばらまく。」と言うことは名誉に対する害悪の告知に当たります。
強制わいせつ罪の暴行又は脅迫の程度は、被害者の反抗を抑圧した場合はもちろん、抑圧しない程度(被害者の反抗を困難ならしめる程度)でもよいとされています。
暴行又は脅迫が上記の程度に達していたか否かは、犯行の時刻・場所その他周囲の状況(人通りがあったか、第三者に助けを求めることができたかなど)、凶器使用の有無・形状・用い方などの犯行手段の方法、加害者と被害者の関係性、性別、年齢、体力などの事情を総合的に勘案して判断されます。
わいせつな行為
わいせつな行為とは、判例(最高裁昭和26年5月10日)によると、「徒に性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反するような行為」と定義されています。
陰部に触れる行為、股間に手を挿入する行為、乳房をもてあそぶ行為、着衣の上から臀部を手のひらでなで回す行為が典型です。
その他、被害者の体に直接触れない、相手を全裸にして写真撮影する行為、停止中の乗用車運転席に乗車していた女性に対して、運転席ドアをいきなり開けた上、車外から同乗の腕をつかんで引き寄せるとともに、同女に向けて射精し、運転席シート等に精液を付着させた行為も「わいせつな行為」に当たると判示した判例があります(前者の行為について、東京地裁昭和62年9月16日、後者の行為について、山口地裁周南支部平成16年2月25日)。
故意
故意については、被害者が13歳以上の場合と13歳未満の場合に分けてみていきましょう。
被害者が13歳以上の場合
被害者が13歳以上の場合は、強制わいせつ罪を犯す意図が必要です。
したがって、加害者が「被害者は自分の行為に同意していた」、「自分は被害者が同意していたものと思っていた(誤信していた)」という場合は、加害者に強制わいせつ罪を犯す意図がなく、強制わいせつ罪は成立しないということになります。
もっとも、取調べや刑事裁判で上記の主張をしたからといって、警察官、検察官、裁判官には直ちに信用してはもらえないでしょう。
強制わいせつ罪では、必ず被害者が被害を訴えているわけですから、加害者の主張を一方的に受け入れるわけにはいかず、被害者と加害者のいずれの供述が信用できるのかがよく吟味されます。
そして、いずれの供述が信用できるか否かは、供述と客観的な証拠との整合性、供述の一貫性・迫真性、虚偽の供述をする動機の有無があるか否かなどから慎重に判断されます。
たとえば、成人の独身男性が、SNS上で知り合った面識のない女子高生を自宅に呼び込み、胸をもむなどのわいせつな行為を行った事件で、男性は「女子高生の同意があると思っていた。」と供述し、女子高生は「同意してない。」と供述したとします。
この場合、女子高生が男性に対して、自宅に行く前に「変なことしないなら、自宅に行ってもいい」という趣旨のメール(客観的な証拠)を送っていた場合、そのメールは女子高生の「同意してない。」という供述を裏付ける一つの証拠となり得ますから、男性の上記主張は信用できないという判断に傾くでしょう。
被害者が13歳未満の場合
被害者が13歳未満の場合は、被害者が13歳未満であることの認識が必要です。
13歳未満だと確定的に認識している場合はもちろん、「もしかしたら13歳未満かもしれない」などという未必的な認識でも、認識があったと判断されます。
「13歳未満であることを知らなかった。」、「13歳か14歳と思っていた。」などと主張する場合
は、被害者の体型、容姿、言葉遣い、被害者の持ち物、被害者と交わした会話の内容などから、そうした主張が合理的かどうか、信用できるかどうかが判断されます。
被害者の年齢の認識につき否認しても、直ちに信用してもらえるわけではありません。
キスは「わいせつな行為」に当たる?
キスが「わいせつな行為」に当たるかどうかはケースバイケースといえます。
具体的には、キスをした時間帯、キスをした場所、キスをした部位、キスをした相手との関係、キスの仕方、相手の反応、キスをするまでの流れ、周囲の状況などから判断されます。
この点、深夜、カラオケボックスという閉鎖された空間に、出会って間もない女性と二人きりになった際、いきなり女性を強い力で抱き寄せてキスをした、という場合は「わいせつな行為」に当たると判断されやすいでしょう。
他方で、日中、多くの人があつまる懇親会で、長年に渡り交際してきた友人に対して、挨拶代わりに手のひらやおでこにキスした、という場合は「わいせつな行為」には当たらないと判断されやすいでしょう。
なお、判例(高松高裁昭和33年2月24日)は、次のように述べてキスが「わいせつな行為」に当たると判示しています。
「男女間における接吻は性欲と関連する場合が多く,時と場合即ちその時の当事者の意思感情や行動状況環境等により一般の風俗性的道徳感情に反し猥褻な行為と認められることがあり得る。人通りの少ない所や夜間暗所で通行中の若い婦女子にその同意を得られる事情もないのに強いて接吻を為すが如きは,親子兄妹或いは子供どうし等が肉親的愛情の発露や友情として為すような場合と異なり,性的満足を得る目的をもって為したるものと解せざるを得ず,かかる状況下になされる接吻は猥褻性を具有するに至るものといわなければならない。」
ハグは「わいせつな行為」に当たる?
では、ハグは「わいせつな行為」に当たるといえるでしょうか?
この点、ハグは、陰部を触る、胸をもむ、キスをするなどの行為と比べれば、被害者の性的自由を侵害する度合いは低いと考えられますから、こうした行為に比べると「わいせつな行為」に当たるとは判断されづらいでしょう。
顔見知りの女性をからかい、後を追って抱き着いたら同女があおむけに倒れたため、馬乗りになったという事案で、判例(大阪高裁昭和29年11月30日)は「猥褻とは徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ,且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反する行為をいうものであるが,(抱き付いて)馬乗りになるという行為自体は,普通の性的行為を実行する体勢ではなく,また直ちに性的行為を連想せしめる行為でもない。」と判示しています。
もっとも、すべてのハグが「わいせつな行為」に当たらない、というわけではありません。
やはり、キスと同様に、最終的には、ハグをした時間帯、ハグをした場所、ハグをした相手との関係、ハグの仕方、相手の反応、ハグをするまでの流れ、周囲の状況などから「わいせつな行為」かどうかが判断されるでしょう。
強制わいせつ罪の量刑
前述のとおり、強制わいせつ罪の罰則は「6月以上10年以下の懲役」と罰金がありません。
つまり、起訴され、刑事裁判で有罪の認定を受けると、必ず懲役の判決を受けるということです。
後は懲役の長さがどのくらいか、実刑か執行猶予かの判断になりますが、いずれになるかは個別の情状によります。
情状とは、犯罪行為に関する情状(犯情)とそれ以外の情状(一般情状)に分けることができます。
犯情には、犯行動機、犯行態様、犯行結果などがあります。
犯行態様についていいますと、強制わいせつ罪の場合、触った部位や触り方、触った回数などによっても量刑が大きく異なるでしょう。
たとえば、衣服の下から胸や陰部を複数回、触った、揉んだなどという場合は「懲役2年以上」は覚悟しなければなりません。
他方で、それほどの行為にいかないという場合は「懲役1年から2年」に収まる場合も多いかと思います。
一般情状には、示談(被害弁償)の有無、被害(処罰)感情、再犯可能性(同種前科・前歴の有無、常習性の有無など)、更生可能性(家族などの適切な監督者の有無、就労先の確保、性犯罪プログラムの受講の有無など)があります。
このうち大切なのは、示談(被害弁償)の有無です。
判決前に示談が成立していれば、懲役の長さは短く、実刑よりも執行猶予という判断になりやすいでしょう。
また、以上は、起訴されたことが前提の話ですが、起訴される前に示談が成立していれば不起訴となる可能性も高くなります。
強制わいせつで逮捕された場合の対処法と流れ
強制わいせつで逮捕されたら、弁護士に刑事弁護を依頼するしかありません。
しかし、弁護士があなたの刑事弁護を始めるには、まずはあなたと接見し、あなたが警察官から読み聞かされた逮捕事実について認めるのか認めないのか、認めないとしてどの点を認めないのかという点について確認しなければなりません。
それによって弁護士の刑事弁護活動の内容も異なるからです。
以下では、逮捕後に接見を依頼できる弁護士と依頼の流れについて解説します。
「当番弁護士」との接見を要請する
当番弁護士は、1回に限り、無料で、あなたと接見してくれる弁護士です。
国選弁護人と異なり、資力にかかわらず、誰でも接見することができる弁護士です。
逮捕前から私選弁護人を選任していない、特に知った弁護士はいないという方は当番弁護士との接見を要請しましょう。
要請方法は、警察官に「当番弁護士と接見したい。」と言えば済みます。
後は、警察官が弁護士会に連絡を入れ、あなたが弁護士との接見を希望していることを伝えてくれます。
要請を受けた弁護士会は、その日に待機している弁護士に接見が可能かどうか問い合わせ、接見が可能ということであれば、その弁護士が接見へ派遣されます(弁護士は選べません)。
なお、当番弁護士は、原則として要請を受けてから24時間以内に接見するとだけされており、あなたが要請したからといって、直ちに弁護士と接見できるわけではありません。
したがって、弁護士と接見する前に、警察官の取調べを受けることがあるかもしれません。
仮に、逮捕事実に納得がいかない、冤罪だと考える場合は、「弁護士と接見するまでは何も話さない。」といって黙秘権を行使してもかまいません。
あなたが逮捕事実について言い分を述べる機会は、警察のほか検察、裁判所でも設けられています。
警察官に対して曖昧なことを述べると後で追及される隙を与えることになりますから、弁護士と接見しアドバイスを受けた上で、取調べ等に臨んだ方がよいです。
繰り返しになりますが、当番弁護士は、1回の接見のみ対応してくれる弁護士です。
また、接見した弁護士が、勾留後、国選弁護人に選任される補償はなく、むしろ別の弁護士が選任されることが多いでしょう。
当番弁護士に接見後も刑事弁護を依頼したい場合は当番弁護士にその旨伝えるとよいですが、弁護士と契約を交わした後は、私選弁護人として活動しますので、弁護士費用は自己負担となります。
「国選弁護人」の選任を請求する
国選弁護人は、勾留決定後に、裁判所により選任される弁護士です(選任された弁護士を「弁護人」といいます)。
私選弁護人と異なり、弁護士は裁判所が選び、選ばれるのは勾留決定が出た後です。
つまり、逮捕から勾留決定までの間の約3日間は、接見も含めた刑事弁護活動してくれない点に注意が必要です。
国選弁護人を選任するためには、資力が50万円以下であることが必要です。
資力が50万円以下の場合は、警察官から渡される「資力申告書」という書類に必要事項を提出して警察官に渡せば、警察官が手続きを取ってくれます。
資力が50万円以上の場合は、警察官にその旨伝え、警察官を通じて弁護士会に(私選)弁護人の選任の申出をしなければなりません。
その後、弁護士と接見し、弁護士があなたの刑事弁護を受任いない場合に限り、国選弁護人の選任を請求することができます。
繰り返しになりますが、国選弁護人は勾留決定後に選任される弁護士です。
したがって、逮捕前から私選弁護人を選任していない、特に知った弁護士はいないという方は、逮捕から勾留決定までの間は当番弁護士との接見を要請しましょう。
そして、資力が50万円以下の方は、資力申告書に必要事項を記入して提出し、国選弁護人の選任を請求します。
万が一、勾留決定を受けた場合は、国選弁護人の刑事弁護を受けることができます。
資力が50万円以上の方は、警察官を通じて弁護士会に(私選)弁護人選任の申出を行い、弁護人となろうとする弁護士がいない場合に限り、国選弁護人の選任を請求することができます。
「私選弁護人」との接見を要請する
私選弁護人は、文字通り、あなた自身が選任する弁護士です。
もっとも、私選弁護人の刑事弁護活動で発生した弁護士費用は全て自己負担となります。
私選弁護人は逮捕前から選任することができます。
逮捕前から私選弁護人を選任していたものの、万が一、逮捕されてしまったという場合は、警察官に「●●弁護士との接見をお願いします。」といって接見を要請しましょう。
その後は、警察官が法律事務所に連絡をし、あなたが接見を希望していることを伝えてくれます。
また、あなたからの要請ではなく、逮捕の通知を受けたご家族、友人・知人からの要請で接見に来る弁護士もいます。
この弁護士は、立場上は当番弁護士と同様に「弁護人となろうとする弁護士」で、ご家族等が正式に刑事弁護を依頼した私選弁護人ではありません。
しかし、弁護士との接見後、弁護士が接見を依頼したご家族等に接見内容等を報告し、ご家族等がその弁護士に刑事弁護を依頼した場合は、その弁護士があなたの私選弁護人となります。
まとめ
強制わいせつ罪は、暴行、脅迫を手段とする犯罪ですが(相手が13歳以上の場合)、わいせつな行為をしただけでも、それが同罪の暴行と評価されれば、同じく強制わいせつ罪に問われてしまう可能性がありますので注意が必要です。逮捕された場合は、速やかに弁護士との接見を要請しましょう。
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