
皆さんは準強制わいせつ罪と聞いてどんなイメージを持たれるでしょうか?
もしかしたら、「準」と付いているため、強制わいせつ罪よりも刑が軽い罪と思われている方もいるかもしれません。
本記事では、強制わいせつ罪より馴染みの少ない準強制わいせつ罪の成立要件や逮捕された場合の対処法などについて解説します。
本記事が、準強制わいせつ罪でお悩みの方の一助となれば幸いです。
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この記事の目次
準強制わいせつ罪の成立要件
準強制わいせつ罪は刑法178条1項に規定されていますから、まずはその規定から確認しましょう。
なお、刑法178条2項は準強制性交等罪に関する規定です。
(準強制わいせつ及び準強制性交等)
第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
刑法178条1項を見ると、
- ① 心神喪失
- ② 抗拒不能
- ③ ~乗じて、~にさせて
- ④ わいせつな行為
という言葉が出てきますので、以下で詳しく解説します。
心身喪失
心神喪失とは、精神又は意識の障害によって正常な判断能力を失っている状態をいいます。
相手が熟睡している状態、泥酔している状態、失神している状態、高度な精神病を患っている状態などがこれに当たります。
なお、加害者を罪に問うために必要な刑事責任能力における心神喪失とは、物事の善し悪しを判断できる能力、その能力にしたって行動を制御できる能力が完全に欠けていることをいいますが、そこまでに至っている必要はありません。
抗拒不能
抗拒不能とは、心神喪失以外の理由によって、心理的・物理的に加害者に抵抗することが不可能か、あるいは著しく困難な状態にあることをいいます。
たとえば、長年に渡り、一緒に同居している加害者から暴力や脅迫を受け続けていたことによる恐怖から抵抗することが不可能だった状態、塾講師の担任が友人から紹介され、かつ、信頼を寄せていた人であったため、心理的に抵抗することが著しく困難な状態だった場合などが抗拒不能の典型です。
~に乗じて、~にさせて
~に乗じとは、すでに作出された心神喪失の状態、あるいは抗拒不能の状態を利用して、という意味です。
たとえば、居酒屋で、お開きになった後、被害者が個室に一人で泥酔していたため、「誰も見ていないからわいせつなことをしてやろう」と思い、わいせつな行為をした、というのが「心神喪失に乗じてわいせつな行為をした」場合の典型です。
~にさせてとは、自ら相手を心神喪失若しくは抗拒不能の状態にして、という意味です。
こうした状態にさせる手段に制限はありません。
飲み物の中に睡眠薬を投与する、お酒を大量に摂取させる、医師が患者に必要な行為だと誤信させるなどが典型です。
なお、暴行又は脅迫を用いて相手を心神喪失、抗拒不能の状態に陥らせてわいせつな行為をした場合は、準強制わいせつ罪ではなく強制わいせつ罪に問われるでしょう。
準強制わいせつ罪と強制わいせつ罪の違いと共通点
準強制わいせつ罪と強制わいせつ罪との違いは犯行態様にあり共通点は罰則です。
違い
強制わいせつ罪は、相手が13歳以上の者であれば「暴行又は脅迫」が必要ですが、13歳未満であれば不要という罪です。
準強制わいせつ罪は、暴行又は脅迫ではなく、心神喪失又は抗拒不能に乗じること、あるいはそうした状態にさせることを手段とする罪です。
また、強制わいせつ罪では年齢によって要件が異なりますが、準強制わいせつ罪では年齢の区別はありません。
共通点
強制わいせつ罪の罰則は「6月以上10年以下の懲役」です(刑法176条)。
(強制わいせつ)
第百七十六条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
また、準強制わいせつ罪の罰則も「176条の例による。」と規定されており、「6月以上10年以下の懲役」であることがお分かりいただけるかと思います。
準強制わいせつ罪が成立するとされた判例
以下では、起訴され、準強制わいせつ罪が成立とされた判例をご紹介します。
理学療法士が患者の陰部を触った事案【懲役3年 執行猶予4年】
理学療法士が、リハビリテーション科の診療スペースで、患者に対して「マッサージ」と称し、患者を抗拒不能の状態に陥らせて患者の陰部を触るわいせつな行為をした。
整形外科医が患者の胸や陰部を触った事案【懲役3年 執行猶予4年】
整形外科医が、手術後の患者に対して、「麻酔の効き目を確認する。」などと言って、衣服の上から、あるいは直接に患者の胸や陰部を触るわいせつな行為をした。
整体師が客の胸をなめ、性器に指を入れるなどした事案【懲役2年6月 執行猶予4年】
整体師の男性が、施術中に、女性客にマッサージを受けるものと誤信させて抗拒不能の状態に陥らせ、女性客の性器に指を入れた上、胸をなめるなどのわいせつな行為をした。
精神科医が患者の胸をなめ、性器に指を入れるなどした事案【懲役2年】
精神科医が、自閉症で入院し早期退院を希望していた患者に対して、早期の退院のために必要な検査だと誤信させて抗拒不能の状態に陥らせ、胸をなめ、性器に指を入れるなどのわいせつな行為をした。
準強制わいせつ罪で逮捕された後の流れとやるべきこと
準強制わいせつ罪で逮捕されたら、「①逮捕→②警察署の留置場に収容、警察官による弁解録取→③送致(送検)→④検察官による弁解録取→⑤勾留請求→⑥裁判官による勾留質問→⑦勾留決定→⑧10日間の身柄拘束」という流れで進んでいきます。
逮捕(①)された後にやるべきことは、まずは、弁護士と接見することです。
逮捕されると、多くの方が取調べへの対応、仕事、家族のことなどで不安になることと思います。
弁護士と接見することで、そうした不安を少しでも解消することができます。
また、特に、身に覚えのない事実で逮捕されたという場合は、この時点で弁護士から取調べに関するアドバイスを受けることは極めて重要といえます。
弁護士と接見した後は、国選弁護人を選任するか私選弁護人を選任するかを決める必要があります。
資力が50万円未満の場合、②の弁解録取時などに、警察官に「国選弁護人を希望します。」と伝えれば、警察官から「資力申告書」という用紙を渡されますから必要事項を記入して警察官に渡します。
資力が50万円以上の場合は、基本的に国選弁護人の選任を請求することができません。
まずは、警察官を通じて、弁護士会に私選弁護人の選任を申出し、申出を受けて接見した弁護士が受任しなかった場合にのみ国選弁護人の選任を請求することが可能となります。
国選弁護人が選任されるのは勾留決定(⑦)が出てからです。
①から⑦までには概ね3日間を要します。
警察官、検察官、裁判官の判断によって釈放されることもありますが、準強制わいせつ罪で逮捕されるとその可能性は格段に低くなります。
したがって、より釈放の可能性を高めるためには、弁護士に警察官、検察官、裁判官に働きかけを行ってもらう必要があります。
もっとも、前述のとおり、国選弁護人は⑦以降に選任されますから、①から⑦までの釈放を望む方は、逮捕前から私選弁護人を選任しておくか、逮捕直後に接見に来た弁護士に自費で刑事弁護を依頼する必要があります。
準強制わいせつ罪で逮捕された場合に接見できる弁護士
先ほど、準強制わいせつ罪で逮捕されたら弁護士と接見すべき、と述べましたが、逮捕直後に接見できる弁護士について解説します。
当番弁護士
当番弁護士は、1回に限り、無料で接見してくれる弁護士です。
逮捕前から私選弁護人を選任していない、特段知った弁護士がいない、弁護士にこだわりはない、資力が50万円未満で国選弁護人の選任を検討している、という方は当番弁護士との接見を要請しましょう。
要請を希望する場合は、警察官に「当番弁護士と接見したい。」と言えば、あとは警察官が弁護士会に電話を入れ、接見を希望していることを伝えてくれます。
弁護士会は、その日に登録されている弁護士に接見を要請し、要請を受けた弁護士は24時間以内に接見することとなっています。
逮捕された方自身が弁護士を選ぶことはできませんし、要請後、すぐに接見に来てくれるわけでもありませんので注意が必要です。
また、当番弁護士が行うのは1回限りの接見のみで、早期釈放に向けた活動や被害者との示談交渉などの活動は行ってくれません。
もし、当番弁護士に接見後も弁護活動を依頼したい場合は弁護士にその旨伝えましょう。
ただし、その弁護士が受任した場合、私選弁護人として選任することになりますから弁護士費用は自己負担となります。
弁護士が受任しない、選任される弁護士がいない場合、あるいはそもそも当番弁護士に刑事弁護を依頼しない場合は、資力申告書を提出の上で、国選弁護人の選任を請求します。
私選弁護人
私選弁護人は、自費で刑事弁護活動を依頼した弁護人です。
逮捕直後に接見してくれる私選弁護人とは、逮捕前から選任していた弁護人のことです。
私選弁護人との接見にかかる費用(日当費、交通費)は自己負担ですが、当番弁護士と異なり、逮捕を知った直後に接見に駆け付けてきてくれ、接見後は直ちに早期釈放等に向けた弁護活動を始めてくれることが強みといえます。
弁護人となろうとする弁護士
弁護人となろうとする弁護士とは、正式に弁護人に選任される前の弁護士のことです。
その意味では、当番弁護士も弁護人になろうとする弁護士の一種ではありますが、当番弁護士とは異なる弁護士が接見に来てくれることもあります。
それが、あなたのご家族や友人・知人が法律事務所を探し、依頼して接見に来た弁護士です。
当番弁護士との違いは、接見費用がかかることです。
もっとも、この場合、依頼したご家族、友人・知人が接見費用を負担してくれるでしょう。
弁護士と接見した後は、弁護士が接見内容等をご家族等に報告し、ご家族等が弁護士に刑事弁護を依頼するかどうか決めます。
ご家族等が刑事弁護を依頼した場合は、弁護士は私選弁護人として活動を始めます。
私選弁護人にかかる費用は自己負担ですが、ご家族等が負担してくれることが多いと思います。
私選弁護人に刑事弁護を依頼する依頼するメリット
弁護士選びの上で、私選弁護人、国選弁護人のいずれにすべきか迷う方も多いと思われます。
そこで、最後に、私選弁護人に刑事弁護を依頼するメリットについてご紹介したいと思います。
逮捕前から依頼することができる
私選弁護人の強みは、逮捕前から依頼することができるという点です。
逮捕前から依頼することによって、被害者との示談交渉も可能となり示談を成立させて、警察に被害届を出されるのを阻止する、あるいはすでに出された被害届を取り下げてもらうことも可能となります。
また、それによって逮捕そのものを回避することも可能となるでしょう。
これに対して、国選弁護人は、逮捕され、なおかつ勾留決定されてからでないと活動してくれません。
誰でも選任を請求できるわけではなく、活動のタイミングも遅いとなれば、逮捕前から私選弁護人に依頼するのも一つの方法です。
被害者との示談交渉が可能となる
前述のとおり、被害者との示談交渉が可能となります。
そもそも性犯罪の被害者が、加害者との直接の示談交渉に応じるはずがないことは誰の目から見ても明らかでしょう。
しかし、弁護士であれば示談交渉に応じてもよいという方も多いです。
また、被害者の代理人弁護士が付く場合もあり、対等に交渉するという意味で、私選弁護人に依頼する意義は大きいといえます。
さらに、被害者と面識がないという場合は、捜査機関から被害者の個人情報を聴き出す必要がありますが、捜査機関が加害者に被害者の個人情報を教えるはずはありません。
したがって、その場合は、弁護士に示談交渉を依頼するほかないといえます。
弁護士であれば、被害者の意向しだいで教えてもらえる可能性があります。
まとめ
準強制わいせつ罪は「準」とついていることから、強制わいせつ罪より軽い罪のように思えますが、実際は同等かそれ以上に重たくなる可能性があります。
お困りの場合ははやめに弁護士に相談しましょう。
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